パスフレーズとパスワードの違い|覚えやすく強い作り方を解説
パスフレーズとは、複数の単語をつなげて作る長いパスワードのことです。通常のパスワードが「短く複雑な文字列」を目指すのに対し、パスフレーズは「長いけれど覚えやすい文字列」を目指します。両者は対立する概念ではなく、パスフレーズはパスワードの作り方の一種です。とくに、パスワードマネージャーのマスターパスワードのように暗記が必要な場面で威力を発揮します。この記事では違いと、なぜパスフレーズが強くて覚えやすいのかを、数値を交えて説明します。実際に生成する場合はパスワード生成ツールも活用できます。
パスフレーズとパスワードの違い
| 観点 | 一般的なパスワード | パスフレーズ |
|---|---|---|
| 形 | 短く複雑な文字列(例:xK9#mQ2!) | 複数の単語の連なり |
| 長さ | 短くなりがち(8〜12文字) | 長くしやすい(20文字以上も容易) |
| 覚えやすさ | 覚えにくい | 覚えやすい |
| 入力 | 記号が多く打ちにくい | 単語なので打ちやすい |
| 主な用途 | マネージャーに保存する各サイト用 | 暗記が必要なマスターパスワード等 |
各サイトのパスワードは覚える必要がないため、ツールで生成した複雑な文字列をマネージャーに保存すれば十分です。一方、マネージャー自体を開く鍵は暗記が必要なので、パスフレーズが適しています。
なぜパスフレーズは強いのか(ビットで理解する)
パスフレーズの強さは、単語をランダムに選ぶことから生まれます。あらかじめ決めた単語リストから、乱数で単語を選ぶ方式(Dicewareと呼ばれます)を考えます。リストの単語数が多いほど、1単語あたりの選択肢が増え、強度が上がります。
たとえば7,776語のリストから1語をランダムに選ぶと、その1語がもたらす強度(エントロピー)は約12.9ビットです。これを複数並べると、ビットは単純に足し算で積み上がります。
| 単語数 | エントロピー(約) | 強度の目安 |
|---|---|---|
| 4語 | 約52ビット | 最低限。オンライン攻撃には耐えるが不十分 |
| 5語 | 約65ビット | 実用的な下限 |
| 6語 | 約77ビット | 推奨。オフライン総当たりにも十分強い |
| 7語 | 約90ビット | マスターパスワードとして安心の水準 |
重要なのは、この強度が単語をランダムに選んだ場合の値であることです。自分で意味の通る文を考えると、文法や連想で予測されやすくなり、実際の強度は表よりずっと下がります。ビットの考え方はエントロピー・強度の測り方で詳しく解説しています。
強いパスフレーズの作り方
- 単語をランダムに選びます。頭で考えず、乱数やツールに選ばせるのが要点です。
- 4語では不足しがちなので、暗記できる範囲で5〜6語以上にします。
- 単語どうしは意味がつながらない、無関係なものにします。物語や文章にしないことが強度を保つコツです。
- サイトによっては数字や記号が必須なので、区切りにハイフンを入れる、数字を1つ加えるなど、要件に合わせて微調整します。
やってはいけないのは、ことわざ・歌詞・有名なセリフ・定型句を使うことです。これらは長くても攻撃者の辞書(フレーズ辞書)に載っているため、単語をランダムに選んだ場合のような強度は得られません。
日本語話者が気をつけること
- ローマ字化した日本語の単語も辞書攻撃の対象です。「sakura」「fujisan」のような語は英単語同様に狙われます。無関係な語をランダムに選ぶ原則は日本語ベースでも同じです。
- 多くのサービスは日本語(かな・漢字)そのものをパスワードに使えないか、文字数計算が複雑になります。ローマ字の単語を組み合わせる形が扱いやすいです。
- 単語数(=ランダムに選んだ回数)が強度を決めます。1つの長い単語より、短くても複数の単語をランダムに並べるほうが強くなります。
結局どちらを使うべきか
使い分けが答えです。
- 各サイトのパスワード:覚えなくてよいので、生成ツールで作った12文字以上のランダム文字列をマネージャーに保存。
- 暗記が必要な鍵(マスターパスワード等):ランダムに選んだ単語5〜6語以上のパスフレーズ。
覚えやすさと強度を両立できるのがパスフレーズの利点です。まずはマスターパスワードを、無関係な単語を並べた強いパスフレーズに作り直すことから始めてみてください。作り方の全体像は安全なパスワードの作り方にまとめています。
よくある質問
パスフレーズはパスワードより安全ですか?
同じ暗記のしやすさで比べれば、パスフレーズのほうが長くできるぶん安全です。人が覚えられる複雑な文字列は8〜12文字が限界ですが、パスフレーズなら無理なく20文字以上にでき、単語をランダムに選べば高い強度を確保できます。ただし単語の選び方がランダムであることが前提です。
好きな言葉やことわざをパスフレーズにしてもいいですか?
おすすめしません。ことわざ、歌詞、有名なセリフなどは攻撃者のフレーズ辞書に載っているため、長くても弱くなります。強度は単語をランダムに選んだ回数で決まるので、意味のつながらない単語を乱数で選んで並べてください。
パスフレーズは何単語くらいが適切ですか?
暗記できる範囲で5〜6語以上をおすすめします。ランダムに選んだ単語なら、5語で約65ビット、6語で約77ビットの強度になり、オフラインの総当たりにも十分耐えます。4語は最低限のため、重要な用途では避けたほうが安全です。
日本語の単語をローマ字にして使えますか?
使えますが、無関係な単語をランダムに選ぶ原則は変わりません。ローマ字化した日本語の一般的な単語も辞書攻撃の対象になるため、意味の通る組み合わせや有名な語は避けてください。単語数を確保することが強度につながります。
参考・出典
- NIST SP 800-63B(長いパスフレーズの許容とスクリーニングに関する方針、2017年公開・その後改訂)
- EFF ロング単語リストによるパスフレーズ生成の解説(Diceware方式、2025年参照)